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- 先天性門脈体循環シャント
症例報告
先天性門脈体循環シャント
先天性門脈体循環シャントが認められた犬の1例
千里桃山台動物病院
<はじめに>
- 先天性門脈体循環シャントとは門脈系と体循環を短絡する先天性の異常血管であり、肝内性・肝外性に分類されます。異常血管の存在により肝臓の血流量が通常より低下し、小肝症や肝性脳症などの合併症が生じることがあります。
- 門脈体循環シャントの確定診断には画像診断が必須であり、当院ではヘリカルCTを用いて診断を行っています。CT検査はシャント血管の走行を三次元的に捉えることが出来、手術手技の選択にも役立ちます。また門脈シャントが確定診断された症例には肝性脳症の評価として頭部MRI検査も併せて実施しています。今回は当院にて肝外性門脈後大静脈シャントと診断し、アメロイドコンストリクター設置術により良好に経過している犬の1例について報告します
症例
- イタリアングレイハウンド5ヶ月齢、♀
主訴
- 一度流涎が認められた以外に明らかな臨床症状は認められなかったとのこと。
- 血液検査時に肝酵素値、血清アンモニア及び血清総胆汁酸の高値が認められた為、本院に精査を依頼されました。
血液検査結果
- 右腎臓頭側で、脾静脈と胃静脈が流入していました。
- 特に胃静脈はシャント血管が後大静脈に流入する直前で合流していました。
右肝区域の門脈枝は確認できますが発達が悪く、左肝区域の門脈枝はほとんど確認できませんでした。
術前計画
- 単一の肝外性シャントであることから、AC設置術を適応としました。
- シャント血管が後大静脈に流入する直前で、胃静脈が合流しているため、 AC設置部位は胃静脈よりもさらに後大静脈側と決定しました。
MRI検査結果
- T2強調画像
- 脳溝・脳室の拡大を認めましたが、臨床症状で発作がなかったこと、脳萎縮が軽度なことから良好な術後経過が期待できると判断しました。
- その他、明らかな異常所見を認めませんでした。
参考
- 正常像(スコティッシュテリア、♀、5ヶ月齢)
- 重度の脳萎縮(フラットコーテッドR、♂、3ヶ月齢)
手術
- アメロイドコンストリクター(AC)設置術ACとはアメロイドリングの外側がステンレスリングで覆われたもので、リングにはキーがあり設置した後に血管からリングが逸脱しない様になっています。アメロイドは吸湿性のカゼインからなり、体内に移植すると膨張し血管を締め付けるようになります。
- 門脈圧を測定しながら手術を行ないました。
- 血管撮影を行ないながらシャント血管の確認を行ないました。
- 写真(左)はシャント血管が確認されたところです。
- 写真(右)はシャント血管にアメロイドリングを設置したところです。
術中DSA画像
- DSA とは造影後の画像から造影前の画像を差し引きすることにより造影血管のみを描出する特殊な撮影法です。これにより一般の血管撮影よりも鮮明な造影画像を得ることが出来ます。
- 写真(上)はシャント血管の仮遮断前の門脈造影画像です。
- 肝門脈枝がほとんど認められませんでした。
- 写真(下)はシャント血管の仮遮断後の門脈造影画像です。
- 肝門脈枝が明瞭に認められました。
経過
- 肝門脈枝が明瞭に認められました。
- 術後痙攣発作も認められず、術後7日で退院し主治医様にて継続治療となりました。
- 血液検査結果